この記事は、新人看護師の教育担当として初めてプリセプターを任された看護師、また教育委員など教育の指導をする立場にある方を対象に書いています。
人が人に教えるという行為は、職業人になってから初めて行う人が圧倒的に多いのではないでしょうか。
「人に教える」、つまり教育や指導は、想像以上に難しく困難な壁にぶち当たることが沢山あります。
想像以上に、新人看護師に伝わらない
想像以上に、新人看護師が成長しない
この「想像以上に」という部分が、指導者に大きくのしかかります。
そしてこれがストレス、つまりイライラの原因です。
人は自分が思ったように物事が進まないと、だんだんイライラしてきます。
では、どうして人はイライラしてしまうのでしょうか?
この記事では、看護師指導の場面でプリセプターはどうしてイライラしてしまうのか、そしてそのイライラをどのようにしたら解消できるのかについてまとめました。
指導場面でのイライラの原因は、意外なところにあります。
この記事を読めば「私ってどうしてこんなにイライラしちゃうんだろう?」という、根本的な性格の改善にもつながる可能性も秘めています。
是非最後まで読んで、イライラを少しでも解消して、新人看護師さんと優しい気持ちで向き合えるプリセプターになりましょう。
人はどうして指導の場面でイライラしてしまうのか
人はどんな時に他人に対してイライラしてしまうのか、考えたことはありますか?
それはずばり、「他人に期待しているから」なんです。
この記事では、指導場面のイライラに特化して原因をまとめました。
・人は他人に期待している時にイライラしてしまう
・イライラしてしまうのは指導を頑張っている証拠
・指導の結果を急ぐとイライラする
・自分の常識が相手にとっても常識だと決めつけてイライラする
人は他人に期待して裏切られた時にイライラしてしまう
人は他人に期待して裏切られた時にイライラします。
逆を言えば、そもそも期待しなければイライラしません。
ちょっと意外だと思いませんか?
私たちは常日頃、色んな物事にイライラすると思いますがが、その原因がまさか「他人への期待」だとは思っていませんよね。
より理解できるように、例をあげたいと思います。
私はプリセプター。新人看護師の物覚えが悪くてイライラする。
どうして毎回同じことで怒らなくちゃいけないんだろう?
私が新人だった頃なんて、一回怒られたことは絶対忘れないようにメモをして、報告に行く前にやったか確認してから先輩のところに行っていた。
そんなことも出来ないなんて、本当にイライラしちゃう。
ここにはいくつもの「期待」が含まれています。
①私の期待通りに物覚えが良くなって欲しい
②私に怒られないように動いて欲しい
③私に怒られたことはメモして欲しい
④私に報告に来る前にやったかどうか確認して欲しい
⑤とにかく私をイライラさせないで欲しい
これを見ればわかるように、ほとんどが自分主体の期待で考えているんですよね。
この期待をしていなければ、イライラしないわけです。
ちょっと意外でしたよね?
私たちは常日頃、「新人看護師は出来ないのが当たり前」と言葉では言いつつも、こうして勝手に期待しては裏切られて、結果的にイライラしてしまっているんです。
イライラするのは、指導を頑張っている証拠
指導を頑張ろうと熱が入れば入るほど、人はイライラします。
そもそも期待なんかせずに、「どーせ教えたって覚えないんだし、適当に教えておこう」と思っている人はイライラしません。
よりよく育てようと思って試行錯誤していくうちに、思ったようにうまくいかず、だんだんイライラしていってしまうのが人間の心理です。
指導の結果を急いてしまうとイライラする
教育や指導は、目に見えてすぐに成果が出るものではありません。
徐々に成果が出始め、半年、1年と振り返った時にようやく「あの頃と比べたらすごく成長したよね」と感じられるものです。
しかし、今まさに指導している人は現状を解決するのに必死。
昨日の出来ないを、今日は出来るように、頑張って指導します。
新人看護師によっては、1つの課題を乗り越えるのに時間がかかる人がいるものです。
苦手なことは、そもそも乗り越えるのが難しい時もあります。
そういった場合、指導の成果はとても見えずらく、プリセプターは焦りと共に苛立ちを覚えてしまうんです。
自分の常識は相手にとっても常識だと決めつけてイライラする
人は、自分にとっての常識は、相手にとっても常識だと決めつけて話を進めがちです。
そして「自分にとっての常識」を相手が受け取ってくれないと、イライラします。
「人は他人に期待している時にイライラしてしまう」の例でも書いたように、人はつい主体的な感情で考えてしまいます。
「私が正しいと思ったことは、相手にとっても正しいはず。だからアドバイスは受け取ってくれるはず」
この感覚を持ちながら指導をしていると、相手が自分のアドバイス通りに実践してもらえないと、「せっかくアドバイスしたのに、なんで受け取ってくれないの?」とイライラします。
そして最終的には「アドバイスを受け取ってくれない相手がおかしい」とか「私の指導を無視するなら、もう知らない」と匙を投げてしまい、育成を諦めてしまいます。
指導中のイライラを解決する考え方
ここまでの記事を読んでくださった方は、指導上でイライラする原因が主体的な考え方から来ているということを学びましたね。
主体的な、つまり自分の考え方から来ているということは、自分の考え方を変えればそのイライラを解決できるということです。
・プリセプティの成長に過度な期待をしない
・与えたものをすべて受け取ってもらおうと期待しない
・指導の結果が出るのは長期戦と捉える
・大きな成果より、小さな成果の積み重ねを大事にする
プリセプティの成長に過度な期待をしない
最初に勘違いしないで欲しいのが、「プリセプティ」を見放すという意味ではありません。
ここの意味をはき違えないでもらいたいので、詳しく説明します。
大人に教えるのと、子どもに教えるのの違いは様々ありますが、社会人教育で難しいのが「大人としてこの程度は知っているだろう」とか「大人ならこれくらいわかるだろう」という先入観をもって指導することです。
その先入観の積み重ねが、プリセプターの過度な期待に変化していきます。
新人看護師は、学校で様々なことを習ってきたとはいえ、看護師として働くのは初めてです。
また、既卒採用の看護師や、社会人経験がある新人看護師も、その職場で働くのは初めてです。
「初めての勤務先で、初めてのことを覚える」というのは、子どもより大人の方が難しくなっていきます。
子どもは吸収力がいいので、例えば「あ」は「あ」と書いて「あ」と発音する、と初めての物だらけでも覚えられますが、私達大人は「未知のもの」と「未知のもの」を組み合わせて覚える、というのが極端に苦手です。
ですから、私たち大人が「新しい職場で、新しい慣習や業務を学んで記憶する」というのは、実はかなり高度なことをしています。
しかし残念ながら、新人の頃、苦労して覚えたあの頃の気持ちを忘れてしまいます。
こういった様々な事情があり、私たちは「大人なんだからこれくらい出来るだろう」などと、過度な期待をして指導してしまいがちです。
しかし、その過度な期待は、私たちの勝手な期待にすぎません。
新しいことだらけの環境に置かれた大人が、すぐに色んなものを覚えたり、それを掛け合わせて判断したり、優先順位をつけて行動したりする。
実は、とても難しいことを求めているんです。
ですから、
1から丁寧に説明する必要があります。
成長を長期的に見守る必要があります。
相手に合わせた指導方法を選ぶ必要があります。
最初の話に戻りますが、過度な期待しない、というのは、新人看護師を見放す、と言う意味ではありません。
期待はしてもいいですが、「なんで成長しないの?」などとイライラするほど期待しないでね、ということです。
成長しなくて当たり前、指導者としてやれるべきことをしよう、という態度で新人看護師と接すると、おのずとイライラからは解放されます。
与えたものをすべて受け取ってもらおうと期待しない
「期待しない」第二弾は、自分が与えたものをすべて受け取ってもらおうとしない、です。
よく「こうしなさい、とやり方を教えたのに、言ったとおりにやってなかった」と怒る人がいます。
絶対的な正解がなく様々なやり方がある場合、その人がどの方法を選ぶのかはその人の自由です。
(方法がマニュアルなどで規定されていて、そこから逸脱して実施した場合は除きます)
私たちは、その様々な方法のやり方の中の1つを提案しているにすぎません。
新人看護師が、教えられた方法を忠実に実施するのも自由。
自分でやりやすいと考えた方法を取り入れるのも自由。
自分で編み出したアレンジを加えるのも自由。
(再度言いますが、方法がマニュアルなどで規定されていて、そこから逸脱して実施することも自由、と言っているわけではありませんので、ご注意ください)
教えるとは、「AはBである」だけを教えるわけではありません。
「AをBにさせるためには、Cという方法、Dという方法があり、自分はCをやっているけど、患者の状況によってはDを選択することもある」という、状況や実施する人の状況を加味していく、という可変的なことを教えます。
ですから、教えたこと全てを新人看護師が受け取らなかったからといって、指導者のことをないがしろにしている、傷ついた、腹が立った、と感じる必要はありません。
私たち指導者は、数ある方法の中から「自分が一番正しい」「やりやすい」と思う方法のひとつを提示しているだけです。
指導・教育とは、自分のコピーを作るわけではありません。
相手が成長できるよう「方法の一つを提示して教えている」と思えば、例え全てを受け取ってもらえなくても、期待してイライラしないようになります。
指導の結果が出るのは長期戦と捉える
指導や教育の結果が目に見えて現れてくるには、とても時間がかかります。
特に新人看護師が苦手とすることを克服しようとした場合は、1年では解決できず、数年かけての長期戦になることも珍しい事ではありません(その場合、請け負うのはプルセプターの役割ではなく、管理職の役割となることがほとんどです)
頑張った結果が目に見えない、すぐに結果が出ないのが、指導の辛いところでもあります。
でも、ちゃんと皆さんが頑張って指導したことは伝わっているはずです。
昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも明後日。
今月よりも来月、半年、1年をかけて、新人看護師は成長していきます。
そして教育を担当している皆さんのレベルも、着実に上がっています。
焦ることはありません。
このサイトのコンテンツを見て、新人看護師さんに合ったより良い教育方法を選択していけば、必ず指導力は上がります。そして新人看護師も成長していくことでしょう。
大きな成果より、小さな成果の積み重ねを大事にする
最終目標を設定するのは大事ですが、毎日の小さな成果の積み重ねも大事です。
すぐに最終目標を遠くに見据えて「全然できてないじゃん!」と悲観するのは簡単ですが、そこに到達するまでの過程を評価する視点を持つと、「出来てない中でも、ここは出来るようになったかな」と冷静に評価できるようになります。
ひとつ前の項目で、新人は成長するのに時間がかかると書きましたが、その時間がかかる過程の中にも、緩やかな上昇曲線を描いて成長している新人看護師さんを捉えられるようになります。
そして、自分の教育者としての成長も感じられるようになるでしょう。
この目標達成のための小さな評価の積み重ねは、モチベーションの維持にも使えます。
山登りで例えます。
登山初心者は、山のてっぺんを見て「絶対あんなところまで登れるわけないよな」と思いました。
しかし登山初心者は、一人ではありません、登山上級者と一緒に登っています。
「そこの道は危ないから、こっちの道を登ろう」「疲れたら、一回休むのも大事だよ」そんなアドバイスをしてくれます。
少しずつ山を登り続けていると、「下を見てごらん、けっこう高いところまで登ってこれてるでしょう?」と上級者さんが声をかけてくれました。
登山初心者は新人看護師さん、
登山上級者はプリセプターです。
この時の小さな積み重ねとは、一度下を見てみて「意外と高くまで登ってこれた」と登山初心者・上級者が共通認識を持って評価する、ということです。
この例えではプリセプターを登山上級者と書きましたが、実際は登山中級者くらいのレベルの場合が多いと思います。
ちょっと道を間違ったり、つい焦って「もっとペース上げて登らないと、日が暮れちゃうよ」と急かしてしまったりすることがあるかもしれません。
今のプリセプター制度では、3~4年目の独り立ちして間もない看護師が教育を担うことが多いのが現状です。余裕がないのは当たり前です。
そんな時、1回山の上から見下ろして、「どのくらい登れたかな?」と確認してみてください。
あなたと新人看護師さんの歩みは、着実に頂上へ近づいているはずです。
焦ることなく着実に、教育に取り組んでいきましょう。
まとめ
今回は、看護師指導でイライラしてしまう原因と楽になれる考え方についてまとめました。
指導でイライラしてしまう原因とは
・人は他人に期待している時にイライラしてしまう
・イライラしてしまうのは指導を頑張っている証拠
・指導の結果を急ぐとイライラする
・自分の常識が相手にとっても常識だと決めつけてイライラする
指導でイライラした時に楽になれる考え方とは
・プリセプティの成長に過度な期待をしない
・与えたものをすべて受け取ってもらおうと期待しない
・指導の結果が出るのは長期戦と捉える
・大きな成果より、小さな成果の積み重ねを大事にする
でした。
プリセプターは、常日頃イライラなどに代表されるストレスを抱えつつ、指導に当たっている人も多い事でしょう。
あなただけではありません、みんなそうです。でも、そのストレスを抱えている状況は、いい状況とは言えません。
自分の考え方ひとつで楽になれるなら、こんなにいいことはないかな、と私は思っています。
このサイトでは、指導者が辛くならないための看護師の育成についてまとめています。
もし指導に関してお悩みがあれば、お問い合わせフォームからご連絡ください。
一緒に楽しく、教育について学びましょう^^
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